今日の話は、何十年も前の話からはじまります。私が小学校1年生の時の話です。
クラスにA君という男の子がいました。ほっぺが赤い男の子だったことを今でも覚えています。私が小学校に入ってはじめてできた友達であり、一番仲の良いクラスメートでした。
いつもは仲良しの二人でしたが、何回かケンカになることがありました。それは、決まって図工の時間でした。私が子供ながら集中してクレヨンで絵を描いていると、2〜3席後ろの席からA君が立ってきて、クレヨン忘れたから貸してと言ってくるのです。赤貸しての次は白貸して、次はという感じで結局クレヨンは一本も持ってきていないのです。最初は、貸しているのですが、最後はケンカになるのです。
長い年月で記憶はかなり加工されているかもしれませんし、そうであれば返って喜ばしいのですが、私の記憶ではA君は一度もクレヨンを持ってきた事がなかった気がします。ただの忘れ物が多い子供だったわけではないというのが自分が大人になってからの記憶です。
A君は、おばあさんと二人で暮らしており、お母さんは離れた場所で暮らしていると聞いていました。その間の詳しい事情は知りませんでしたし、小学生には考えも及びませんでした。
まもなく、A君の姿はクラスから消えました。その後で、A君は転校しましたとだけ先生から聞きました。A君がいなくなったことはショックでしたが、私も学校に慣れて新しい友達と遊ぶようになっていきました。
A君のことをよく思い出すようになったのは、大人になってからのことです。A君は、どんな境遇で育っていたのかなあ。今頃幸せに暮らしているかなあなどと。せっかく自分のところに来てくれたのに、クレヨンくらい気持ちよく貸してあげればよかったなあと。
もちろん、A君が苦労の多い境遇で育っていたのではないかというのは、全くの想像でしかありません。ただ、精神科医という職業についてたくさんの方のお話をうかがっていると、育った環境からの呪縛から脱し切れていないため苦しんでいる方も大勢いらっしゃることを知るのです。
そういった方々こそ、自分にしかないオリジナルな人生を歩んでいただきたいものです。時間はかかるかもしれませんが。
I’m OKと自分の存在を肯定できるようになっていただきたいと切に願う次第です。